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貴方はとてもいい人だった
私には勿体無いくらい、本当に
「ん、どうしたの?」
「……ううん。なんでもない」
私達が出会ってからもう1ヶ月が経つ
その期間で貴方のことをたくさん知った
街中で泣き崩れた私を家まで運んでくれた
一緒に飲みに行ったりもした
私が元気がないときはそばにいてくれた
優しい人なんだと思った
「ねぇ、好き」
そう呟いた私を見て、貴方は大きく目を見開く
嘘だろ、とでも言いたげな表情で
「だから突き放してほしい」
「……どういうこと?」
意味のわからないことを言っていると自分でも思う。好意をもって告白したのに可笑しいよね
「僕の未来を奪うんじゃなかったの?」
その一言にハッとした。貴方は物好きな人だ
私はすでに、貴方の人生の半分以上を奪っている。一緒にいたのはたった1ヶ月だけど、貴方にとって私はきっと大きな存在になっている。それはもうお互いに確信していること。もし私が急にいなくなったら貴方は酷く悲しんでくれるんだろうな
「……心中しよって言ったらどうする?」
「君が望むことなら、なんでも」
貴方はそう言って、やさしく微笑んだ
愚問だ。貴方の覚悟はこんなにも大きかったのね
「冗談。さっきのもね、本当は一緒がいい」
「わかってた。死なないで。ずっとそばにいてよ」
微かに震える声は、今までにないくらい弱々しかった。強くからだを抱きしめられて、私もそれに応えるように貴方の背中に腕をまわす。呼吸を間近で感じて鳥肌がたつ。頭上からは水が一滴落ちてきた
「おねがい……っ、だから……」
水、いいや……涙だ。貴方は不自然なことに泣いている。理由は何だろうね
「ごめん」
泣き続ける貴方は、まるであの日の私のよう
慰めとか気の利いた言葉をかけてあげればいいんだろうけど、何も思い浮かばなかった
口から出てくるのは、ただひたすらのごめんなさい
「ごめん。ごめんね」
私は、この光景を知っている
今まで何度もみてきた未来図の─────
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