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それからだ。娘が感情を表に出さないようになったのは。学校でもほとんど笑わない。喜怒哀楽の感情を表にまったく出さない。ジョンたちが自分のために動いてくれているのも、娘なりに申し訳なく思ってたんだろう。感情を意図的におさえるようになってしまったんだ。
そんな娘は中学時代も無表情に過ごしていた。私はこのまま娘が感情のない人間に育ってしまうのかと危惧していた。
そして高校に入って。君と出会ったわけだ。娘は写真撮るな!と怒るんだけどね。どうしても、撮りたかったんだ、この朝は。なんてことない平日の一日の朝の風景の写真があるだろう。住宅街の道の奥のほうに小さく見える背中が娘だ。朝、登校するときすごくうれしそうだったんだ。だから、その感情が近所の花にまで影響をあたえて、やたらと花が咲く住宅街になっている。娘がとおった後にたくさんの花が咲いたんだ。娘はなるべく表情に出さないようにしていたが、相当嬉しかったんだろう。
感情によって無意識のうちにテレポーテーションしてしまう君と出会ったからだよ。ほら、こういう話をしていると君はすぐ消える。さっきからすぐ消えては、隣の部屋や玄関からこっちへ戻ってきているよな。君は君なりに、対応しようとしてくれているのだろう。
まったく、娘の病にも驚いたが君のような症状をもつ人間もいるんだな!本当に世の中はまだまだ未知のことだらけだ。娘や君に教えられるよ、私がちっぽけな世界にいたということをね!
もしかしたら、君ならば、娘の笑顔を取り戻してくれるかもしれないと期待しているんだ。あ、そういうこと言うと今度はトイレに瞬間移動したのか。まったく君も大変だな。では、娘とのデートに行ってきたまえ。娘を泣かせるなよ!
(終)
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