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 事件を重く見た警察当局は、卑劣な説を提唱したIDの身元を割り出し、書き込みを行ったとされる十八歳の高専生を名誉棄損と威力業務妨害の罪で逮捕するに至った。  ZONY自身は、あくまでも意味のわからない歌詞を並べた歌を動画として公開しただけに過ぎず、警察が関知するまでのことにはならなかった。だが、事件の遠因になったことや、ZONYの今までのグレーな挙動、そして胡散臭く、後ろめたいように感じられる方法で、巨額の富を得ていることが判明した彼はもはや、ルサンチマンの受け皿であるどころかその的であると看做されるようになっていた。  テレビの街角インタビューで、老婆が「世間様に顔向けできるのかね、ああいうけしからん手合いは」と、ぼやく姿が放映された三分後、パソコンの液晶の画面には、「今度のZONYの。あれはちょっといけないと思ったね」という言葉がアップされていた。 「そもそもZONYは、下火になってきていたよ。もう終わったコンテンツってやつだ」 「俺は最初から嫌いだったね。動画クリエイターの代表みたいに扱われているのは癪だった」 「ZONYも逮捕されたら、面白かったのにな」  この中で、誰が初めからアンチZONYだったのか、先の事件の動画が公開された時に同調して楽しんでいながらも卑怯に掌を返したのか、それを知る術はない。  再生回数の欄に刻まれた9ケタの数字と、コメント数のタグの横に並んだ6ケタの数字の見てくれは大仰にもかかわらず、ZONYの敵と味方がどの程度の割合でいるのか、彼の行為は認められるべきなのか否か、そして、その動画の視聴者の何人が法律では裁かれない罪を背負ったのか、何のヒントも提示してはくれなかった。  この動画の騒動以降、ZONYの更新はぱったりと途絶えた。若者たちの間であれほど身近な存在となりつつあった彼の動向を知る伝はもう何も無くなってしまっていた。
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