Merry

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 初冬のある日、閉店後の事。  照明を全て消し、店内BGMをオフにすると、二階建ての売り場が暗闇と静寂に包まれた。  その真っ暗で静かな売り場を後にして、隣接する事務所に入った。  照明が点いた事務所の中では、店長がパソコンと向き合っていた。  他の従業員はすでに帰っていて、店には自分と店長の二人だけだった。  店長と他愛もない話をしていると……。 ガッシャーンっ!  ドアの向こう。  売り場の方から、何かが落ちた様な大きな音がした。  事務所のドアを開け、暗闇と静寂に包まれた売り場に向かった。  しかし、様子が違った。  真っ暗ではあるが、静寂ではなかった。  どこからか、オルゴールの様な音が……。  暗い中、どこからか鳴り響いていた。  赤ん坊をあやす様な、ゆっくりとしたオルゴールの旋律。  聞こえてくるそれは、暗闇の中にある売り場を不気味に演出していた。  異様な感覚。  数分前の売り場とは、空気感が違っていた。  背中に寒気を感じながら暗い中を進み、辺りの気配を探っていると、店長が売り場の照明を点け始めた。  明かりが灯され始め、少しホッとした。  だが、オルゴールの様な音は、まだ続いている。  店長にもこの不気味な旋律が聞こえていた。  とりあえず、微かに鳴り響く音の出処を、店長と手分けして探すことにした。  店長が一階を、自分が二階を捜索。  階段を上ると、不気味な旋律が近くなってきている。  どうやら、二階にこのオルゴールの様な音の出処が……。  階段を上りきると、メロディを奏でているモノの正体が分かった。  家具売り場に置かれたベビーベッドの上。  そこに置かれた、とあるベビー用品が発している事が分かった。  そのベビー用品の正式名称は分からない。  ただ、商品名が。 『○○メリー』『××メリー』  という風に、『メリー』という言葉が付くモノだという事は知っていた。  その電子音のオルゴールを奏でる『メリー』というベビー用品。  たくさんの飾りが付いた棒を四つ足で支えている様な作りのモノ。  要は赤ん坊のおもちゃだ。  その『メリー』に付いた飾りの一つがこのオルゴールの様な電子音を発していた。  店長を呼び寄せると、飾りに付いているスイッチを押した。  すると、音は鳴り止んだ。  どうやら、飾りに付いているボタンを押すと、先程のオルゴールの様なメロディが流れる仕組みになっているみたいだった。
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