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ところが師匠と会うと、やはり、胸の高鳴りが起きてしまう。
私はそれを必死で“尊敬への表れ”“尊敬への表れ”と心の中で叫んだ。
決してこれは恋じゃないと自分で否定し続けた。
師匠は私の乗り越える壁……
男として見ちゃダメだ。
付き合いたいなんて思っちゃダメなんだ。
私が心の葛藤をしているのも知らずに師匠はしばらくレッスンの休止を宣言した。
「それはどうしてですか?」
「実は少しの間、東京の出張が多くなるんだ。『幽体離脱』や俺の意識にお前を招待して、勉強を見てやれることもないが、あれは疲労が後からどっと来るから、お互いの為にならない」
「そうですか……」
私は胸を撫で下ろした。
当分の間、胸の高鳴りが熱くならないですむのだから。
でも、少しだけ寂しい思いをしたのも事実だ。
「それでお前にエリックの世話を頼みたい。エリックもお前に懐いてくれてるようだし、豹に変身しなければいい話なんだが、お願いできるか?」
「いいですよ」
「ありがとう。助かったよ」
師匠は嬉しそうに私に笑顔を見せた。
すると一気に私の顔が赤くなってしまった。
私はそれを師匠に見せまいとすぐに顔を背けた。
そして、再び“尊敬への表れ”と自分に言い聞かせた。
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