炎の聖女と千剣の少女

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馬乗りになって全ての体重を乗せて、自分の腕が痛くなるまで力を入れる。 片目を閉じて苦しそうにするアイネだが、抵抗らしい抵抗を見せず、私の目を見続ける。 「な、何を……その手を汚してはならない!」 地面に捕まっていた女性が私を突き飛ばして、両肩を手で掴んで声を掛ける。 そこで漸く体から力が抜けて、呼吸が荒くなっている事に気付く。 咳き込んでいるアイネは怒ることも無く、私と目が合うと微笑む。 「大丈夫なのか、息が荒いぞ」 「後免なさい大丈夫です。アイネさんも、御免なさい」 「構わん。私も変な事を言った」 全員が何も喋らなくなって変な空気が漂い始めた頃、二足歩行の兎が前を駆け抜け、その後ろを少女が追いかけて行く。 草の奥でぐしゃっと音がすると、兎の耳を掴んだ少女が戻って来る。 怯え切ってガチガチに固まった兎は、手に持っている懐中時計を力強く握っている。 「さっきドラゴンが居たと思うんだけど、私の気のせい?」 「……私の事か」 手を挙げたアイネに歩み寄った少女は、腰の剣を抜いて斬り掛かる。 首に吸い込まれた刃は通ること無く、鱗に阻まれて止まる。 「本当にドラゴンだ! ここの世界はやっぱり鏡の中なのね」     
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