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「なら、いつもふらっと居なくなるのをやめて下さい。帰って来なかったらジャンヌとアリスが悲しみます」
「そこにおぬしは居らぬか」
「はい?」
「何も言うておらぬ、街の中心に行くぞ」
そう言って前を歩き出したアイネに続き、人混みの中を揉まれながらなんとか進む。
アイネとの間に何人も人が割り込み、遂に見失ってしまった。
立ち止まった私を奇妙な目で見ては通り過ぎて行く人々の目は、とても冷たくて無機質的なものに感じられる。
突然体が震えだした私は、自分の両肩を抱き締めて道の端に座り込む。
「お嬢さん。どうしたの?」
顔を上げると琥珀の瞳と目が合い、優しい笑顔を向けられていた。
突然手を掴まれて赤い花を握らされ、手を引かれる。
半ば引き摺られるように細い路地に連れられ、行き止まりでやっと止まる。
「貴女は誰ですか」
「んー? 私はヨルムだよー」
「言われても分からないです、アイネさんが探してるかも知れませんので」
「何言ってるのかしらー? 貴女は私の糧となるのよー」
蒼色のドラゴンに姿を変えたヨルムは、手で私を鷲掴みにして大きな口を開く。
鋭い牙がアイネが作ってくれた服に食い込み、ギリギリと音を立てて罅割れる。
「んもー、硬い」
バキバキと服が音を立て始めると、雷が落ちたような轟音が響き、ヨルムの牙が緩む。
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