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冷たくて気持ち良い水が全身を洗い流して、今までの水浴び史上最もすっきりする。
大きな牙に背を着けて、思い切り伸びをする。
「おぬしの名は何と言う」
「私は何て名前だったんでしょうね。村の人からは名前で呼ばれる事なんて滅多に無かったですし、名前で呼ばれるのは何かあっちが困ってる時で、いつもはおいとか、お前とかしか呼ばれません」
「……愚かなものだな、何と浅ましい種族なのだ」
「仕方がありませんよ、私たちは余所者だったので。あなたの御名前は何ですか?」
「私か、私の名はアイネ・トールと言う。おぬしの事はこれからクライネと呼ばせもらう、良いな」
「嫌ですよ、もっと可愛い名前は無いんですか?」
むっ、と言ったドラゴンは、暫く唸ってから口を閉じる。
真っ暗になった視界で何か大きなものが動き、溜まっていた水が少なくなっていく。
再び口が開かれると手の上に吐き出されて、いじけた様に顔をそっぽに向ける。
「我ながら良い名前だと思ったのだ、それで我慢するが良い。お前なんてもう知らん、これからはその服でも来ていろ」
ドラゴンの手の上にあったのは、丁寧に編まれた体を拭く布と、黒い鱗みたいな物で編まれたワンピースが置いてある。
「これ、あなたの鱗ですか?」
「そうだ、良いから早う服を着ろ。私の鱗は丈夫で軽いぞ」
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