0人が本棚に入れています
本棚に追加
そうかと言ってまた唸り始めたアイネは、再び拗ねたようにそっぽを向いて、歩く速度を早くする。
「もう勝手にしろ」
そう言って翼を広げたアイネは、飛翔してどんどん小さくなって行く。
じじい臭い喋り方をしているのに、子どものようによく拗ねる。
悠久の時を生きるドラゴンなのに、子どもっぽい人だ。
森の中に重い足音が響き、木の陰で大きな影が動く。
「うそ……この森に餓狼が居るなんて……」
主に山に出没する餓狼は、この森に何故か存在していなかったが、目の前の木の陰から確実に私を狙っている。
怪しく光る眼光は私の足を地面に縫い付け、怯え切った体から言葉さえ平気に奪う。
飛び出た餓狼は私と急速に距離を詰め、鍛え抜かれた脚で飛び掛かる。
私の目の前に迫った時、空から落下して来たアイネは餓狼の隣に着地して、手に持っていた大量の花を私に差し出す。
「この花綺麗じゃぞ、のう犬っころ」
「この花よく見ますよ」
「なっ……私は見たことがなかったんだ」
「守護者なのに?」
「なのにだ。素直に喜べ馬鹿者が、おぬしのように白くて綺麗じゃろ?」
「私よりも遥かに綺麗です、どちらかと言えば髪も肌も白いアイネさんの方じゃないですか?」
アイネに首根っこを掴まれている餓狼はすっかり大人しくなり、体に花を飾られてオブジェと化している。
最初のコメントを投稿しよう!