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望まれない命
小さな村の村長の家の前で、私は手に枷を着けられて、集まった皆からは犠牲になってと言われているような、悲しい顔で見られている。
勿論だれもそれを言葉に出す事は無いが、いっそ怒鳴って石を投げつけられる方が気が楽になる。
村長の話はもう耳に入って来ず、叶う事なら最期くらい愛情というものを感じてみたかった。
しかし、最後までこの人たちは当然と言わんばかりに、私に生贄に行ける事の名誉を説く。
「儂等の命運はお前に掛かっている、立派に生贄を務め上げよ。決して無礼の無いように」
長々しい話が終わると、村長の息子に繋がれている鎖を引っ張られて、森の中に連れていかれる。
無言で前を歩く村長の息子は、突然足を止めて、私の方に振り返る。
「俺はここまでだ、ここを真っ直ぐ歩けば少しで着く。分かってると思うが逃げるんじゃないぞ、お前が生きても意味が無いんだから、せめてその命で俺たちを救ってくれ」
それだけ言って来た道を引き返して行った村長の息子の背中を眺めて、進む先の道を見る。
生きてても意味は無いのかもしれない、でもこんな私なんかにも夢はある。
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