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 前まで一人でふさぎ込んでいたことが、とてもちっぽけなものに思える。  誰のおかげだろう? 「春人、この前俺が言ったこと覚えてる?」  ふいにミチルが聞いてくる。  ミチルにはいろいろ言われているから、この前言ったことがなにをさしているのか考える必要があった。 「元気になったら、一緒に来てほしいっていう……?」  ちょっと不安に思いながら言ったら、ミチルが破顔する。そうだよ、と頷かれて安心した。 「あのね、春人」  窓ガラスに反射した彼の瞳がきらりと光った。 「ずっと言えなかったことがあるんだ」  春人は首を傾げる。 「それでね、そのことは……春人を酷く傷つけてしまうかもしれない」  窓ガラスに映った彼の瞳と目が合う。それに気付いたミチルが、ちゃんと春人の方を見た。彼は寂しそうに笑う。 「だけど春人は一歩踏み出してくれたから、俺も……踏み出さないといけないなって、思うんだ。俺は春人を信頼してる。だからちゃんと打ち明けることにする……それが春人を傷つけてしまうとしても……そうしなければならないから。それが信頼してるってことだから」  なにやらとても深刻なことらしかった。ミシンをいじってる時よりも真剣な表情で見つめられた。春人は分かった、とミチルに聞こえるくらいの大きさで言う。そしたら不意に手を取られた。 「それで……それでも春人が俺を好きって言ってくれるなら……」  ミチルは黙り込んでしまった。  春人は言葉の続きを待つ。指を絡められた。ミチルは林檎酒を飲んだ後みたいに頬をばら色に染めて春人の顔を見てくる。宇宙を閉じ込めた瞳が、流星群を落とし込んだみたいにきらきら光って美しかった。 「春人を抱いてもいいかな」  上擦って少し枯れた彼の言葉は水の波紋のように震えて広がって、春人の心に響いていく。  
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