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春人を離したミチルは、斜向かいの食べかけの食パンを指差して言った。いたずらがばれた子どものような気持ちになる。春人は咄嗟にミチルの胸に凭れかかって裾を掴んだ。彼の顔を若干見上げるようにして控えめに見つめる。
「残しちゃだめ? ミチル……」
わざと色っぽく言ったけど頬をつねられて終わった。
「そんな顔してもだめです。効きません。ちょっとしか」
「ちょっとは効くんだ」
「まぁちょっとはね」
*
久々の教室は特になにも変わっていなかった。このなんの変化のなさがたまらなく心地がいい。ミチルが逐一配られたプリントを持って来てくれていたから机の中も最後に見た時となにも変わらない。まだ登校時間には早すぎて誰も来ていなかった。静かな教室はすごく好きだ。
「みんなは風邪引いたと思ってるからね」
ミチルがおかしそうに言った。春人は頷いて窓際に寄って校庭を見はるかす。
寝ている間にすっかり冬になってしまった。落葉もほぼ済んで、木々はあとは眠るだけと言わんばかりに閑静だった。なに見てたの、とミチルが隣にやってくる。
「もう冬だなって」
「明日で学校も終わりだしね」
予想外の言葉に思わずミチルの顔を見る。
「……そうだっけ?」
「忘れてたの? みんなすごく浮き立ってるよ」
冬期休暇を挟めば休んでいた分の勉強も巻き返せるなと春人は思った。
休んでいた分たくさん勉強しないと……完璧じゃなくてもいいんだし、となんだかとても気楽だ。かつては一日サボっただけで死ぬかもしれないって思ったのに。
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