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処女みたいに扱われるのはかなり新鮮な気持ちがした。そしてそんなふうに扱ってくれる彼がすごくすごく愛しくて、嬉しくて、幸せだった。この人にとってみたら自分は処女なのかもしれない……それに僕も……心までは売ってない。
笑った。照れくさい。朝からすごいことを言われた。
「……うん」
勢いよく抱きしめられる。
「春人、大好き!」
好きの表現の仕方が単純明快で子どもじみていて笑えてくる。でもミチルらしくていいなと思った。すっごい苦しい。苦しいって言ったら離されたけどすぐに頬にキスされた。
「ここ学校だよ!」
恥ずかしくて突き放してしまった。
自分の中にこんな初心な気持ちがあるなんて知らなかった。
「誰もいないからいいでしょ」
ミチルは少しの悪びれた様子もない。それどころか春人の反応を楽しんでいるようにも見えた。笑顔だけはさわやかで、心の中でこの野郎、と思わず罵った。
「でも……そろそろ来ると思うんだけど」
そう続けて彼は教室の時計の方を見た。春人もつられてそちらを見る。
教室の扉が勢いよく開いた。
タイミングが神がかっている。
びっくりしている春人の横で、ミチルがわお、と感嘆の声を洩らしていた。
華奢な女生徒のシルエットが朝日に反射して眩しい。ふわふわの髪が歩く度にゆらゆら揺れていた。彼女は二つの鞄を持っていた。一つはなんの装飾も無い地味な鞄で、もう一つは手提げのところに遠慮がちにキャラメル色の細いリボンと、フェルトで作ったやけに完成度の高いアイスクリームのストラップがついている。
ひまわりだって恥じらうくらいの笑顔で小夜は言った。
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