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でもこれは夢じゃない。
心が優しく解けていくような気持ちがした。ありがとう、という言葉でいっぱいになる。この言葉に形があるなら、風船につけて、色んなところへ飛ばしたいくらいだった。こんな気持ちで溢れるのはいつぶりだろう、と春人は考える。もうすっかり思い出せなかった。
そのうちちらほらと他のクラスメイトが教室に入ってきた。小夜とミチルが顔を見合わせて目配せしている。春人からしてみればただの目配せだったが、それは彼女達の中で別の意味を内包している。そんな目配せだった。
学校を休んでいる間に、ミチルと小夜はすっかり仲良しになったようだった。考えてみると趣味も好みも似ているし、腑に落ちる所がある。二人とも広義だけど甘いものが好きで、縫い物も好んでやっている。
いいなぁと思った。
自分が好きな人と好きな人が仲良くしているのを見るとすごく心がぽかぽかする。そしてその輪の中に自分が入れてもらえることがとても幸せだった。
春人はそんな気持ちになりながら二人を見ていた。
突然ミチルが春人の方を向く。
「じゃあ俺、ここで待ってるから」
他のクラスメイトに配慮したような小さな声でミチルは言った。小夜が頷く。小夜が教室の入口の方まで歩いていって手招きしてくる。
声は出ていないけれど、ついてきて、と口が言っている。いつもの小夜のような感じがした。
誰にも見えないような死角を縫って、こっそりとミチルに手を握られる。
「……大丈夫」
祈るように呟かれた。
「……ミチル?」
「行ってらっしゃい」
手が離れていく。その手は春人を見送るように振られた。わけが分からなかったけど、とりあえず小夜について行くことにした。
小夜は春人に見向きもしないでとことこと前の方を歩いていた。階段を降りる彼女の後ろ姿は髪がふわふわしていてとても可愛い。
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