4/4
前へ
/170ページ
次へ
 片手で竿を扱きながら、付け根から先端に向かってゆっくり扇情的に舌を這わせる。わざと吐息を洩らせば、びくついてさらに質量を増し張りつめていった。先から汁が溢れる。絶妙な角度で目を閉じて、先端をきゅう、と吸って音を立てた。 「……おいし、……」  一心不乱に貪る……ふりをする。体は熱帯夜のように火照るけれど、心は風のない海のように凪いでいた。セックスは嘘。どれだけ気持ちいいか、どれだけよがっているか、どれだけ感じているか、狂っているか、嘘で相手をその気にさせる技術だ。そのはずだった。  そのはずだったのに、最近自分がよく分からない。  嘘が本当になっている気がする。  こんなの自分じゃないと思う反面、体は正直に快楽に溺れている。 「入れるよ」 「ください……はやく欲しい……」  後ろで男の昂ぶりを受け入れることに期待している自分がいる。  汚い嘘も、本当に自分がそう思っている言葉のようにも思える。  自分の居場所はどこなんだろう、と思わないこともない。  心の中で大きく息を吸った。  中に入ってくる。  息を止めて、激しい快楽の波に漂うことだけに集中する。  溺れることはない。深い海の底にただ沈んでいくだけ。 「たくさん気持ちよくします……ね」  ちゃんと戻って来られることを祈るだけ。  ただ、祈るだけ。  
/170ページ

最初のコメントを投稿しよう!

106人が本棚に入れています
本棚に追加