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片手で竿を扱きながら、付け根から先端に向かってゆっくり扇情的に舌を這わせる。わざと吐息を洩らせば、びくついてさらに質量を増し張りつめていった。先から汁が溢れる。絶妙な角度で目を閉じて、先端をきゅう、と吸って音を立てた。
「……おいし、……」
一心不乱に貪る……ふりをする。体は熱帯夜のように火照るけれど、心は風のない海のように凪いでいた。セックスは嘘。どれだけ気持ちいいか、どれだけよがっているか、どれだけ感じているか、狂っているか、嘘で相手をその気にさせる技術だ。そのはずだった。
そのはずだったのに、最近自分がよく分からない。
嘘が本当になっている気がする。
こんなの自分じゃないと思う反面、体は正直に快楽に溺れている。
「入れるよ」
「ください……はやく欲しい……」
後ろで男の昂ぶりを受け入れることに期待している自分がいる。
汚い嘘も、本当に自分がそう思っている言葉のようにも思える。
自分の居場所はどこなんだろう、と思わないこともない。
心の中で大きく息を吸った。
中に入ってくる。
息を止めて、激しい快楽の波に漂うことだけに集中する。
溺れることはない。深い海の底にただ沈んでいくだけ。
「たくさん気持ちよくします……ね」
ちゃんと戻って来られることを祈るだけ。
ただ、祈るだけ。
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