第4章「さがしもの」

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部屋の中もきれい。 入ってからというもの変になってしまうとまともに家具も動かせなかった寮の部屋みたい。 これまでの常識や感覚とあまりに違うときは自分の手が入る前の外のデフォルトを信用するようにしている。 これは中3で学んだ。 「内装いいよねー。それに景色も良さげだったから即決しちゃったんだ。海も見えるよー」 ほら、とカーテンを開いた。 ちょっとびっくりしたがベランダもない。景色を見せてくれるためだけの行動。 落ち着いて、荷物をおいておそるおそる覗いた。 「きれい」 ぽつぽつと街灯のひかりが遠くに見える。きっとあの暗いところは商店街だろう、海に行くときにバスで通った。 そうした人の営みの奥。 沈んでしまったから陽の光もなく、ひたすら星々が照らすだけの黒黒とした海があった。 全部飲み込んでしまうような不安を抱かせるほど雄大で底の知れないそれに、どうしてかすごく目を奪われる。 「あ……、えっと。景色を眺めるために外を見ることなくて。夜景が綺麗っていうのこういうことなんですね」 「……? 修学旅行とかで泊まるようなホテルとかって結構夜景楽しめると思うんだけど……、疲れて寝ちゃったの?」 りょこう。 俺には一度たりとも縁のなかった言葉。 ……、そっか。これ、旅行だ……? 「行ったことなくて。旅行……は、これが初めて、です」 そう思うとなんだか凄く胸にせり上がるものがある。 この感情はたのしい、だ。 「テレビ、は? クイズ番組でも旅番組でも、そのぐらい……」 「テレビないんですよ」 如月くんは天を仰いだ。
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