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「終わったん、だな」
フィルター近くまで灰が迫っていた。ろくろく煙を吸いもしていなかったが、治樹はベッドサイドの灰皿にそれを押し付けて、ため息を吐くようにそう呟いた。彼女の温もりを求めるように、先ほどまで彼女が白い肌を押し付けていたシーツに一人横たわる。だが、そこはしっとりと汗で冷たく湿っているだけで、情熱的だった彼女の温もりはもうどこかへ逝ってしまっていた。
(愛していたんだ、本当に)
なくしてから気がつくものを、治樹は改めて感じていた。そして、戻らない彼女の温もりを思い出しながら、左手の薬指の鈍い光を初めて疎ましく感じたのだった。
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