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『こんなに苦しい想いを抱えるくらいなら、いっそ初めから出会わなければ良かった』
そんな、妙にありふれた苦しい恋の結末のような単語をパソコンの画面に打ち込んで、あまりに乾いた単語の響きに思わず苦笑し、藍はその言葉たちをバックスペースキーで消去した。まるで、自分のその想いも一緒に消去するかのように。
叶わぬ恋。誰しも経験することだろう。藍もその一人だった。その想いはあまりに膨らみすぎて、藍の手には負えなくなっていた。いっそ想いを伝えられたらと何度も考え、そしてその都度結果は同じで、黙って一日届かぬ思いに身を捩じらせて耐えるのだった。
「先生、どうにかお願いしますよ」
後ろで担当の編集者が涙声を出す。藍は小さくため息を吐いて、
「うん。ごめんね。わかってる」
そしてまた、彼の姿を思い返すのだった。
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