02,一方通行【ジョバイロ/ポルノグラフィティ】

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彼と出会ったのは、出版社が主催した新年会のパーティーだった。その年の新人や、受賞者を集めた記念パーティーも兼ねていて、藍はその年の新人として、彼はとある賞を受賞し出席していた。彼は大先輩で、担当編集者に連れて行かれて挨拶をしたときの藍の緊張は、初めて自分の書いた小説が雑誌に取り上げられたときの比にならなかった。 「可愛い新人さんだね。よろしく」 そう言って、華奢で大きな白い手を差し出され、藍は夢見心地でその手をとり、小さくよろしくお願いしますと呟くように答えたのだった。その柔らかな手の感触と、優しげなとび色の瞳と、年齢に相応した落ち着きに、一瞬にして藍を虜にしたのだった。 以来、彼の小説を読むたびに、藍は自分の体が熱くなるのを感じた。だが、自分のことなど恐らくもう記憶の隅にもないだろうことを思い、その熱さは急に冷たく体の芯を冷やしていくのだった。
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