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手伝いに行けばよかったのかもしれない。でも、合鍵持ってねぇ俺があの人の部屋に入るのは鍵を開けてもらわないといけない。寝ているところをわざわざ起こすのは気が引けた。それに、俺が手伝うっていっても、きっとあの人はそれを断り、逆に気を使うだろ。茶出して、のんびりしてくれっていって、洗濯物は夜に後回し。俺は手伝うどころか邪魔になる。男、同性で、年下で部下である俺に仕事でも、家事でも、きっとあの人は頼らない。
――お前にはお前の仕事があるだろう? こっちは大丈夫だから。
きっとそう言って笑う。同じ男だから、お互いにその部分では寄りかからない。あの人はそんなふうに寄りかかるのを許さない。そう思った。
それだけじゃない。
本当に無理させたくないんだ。仕事初めからトイレで襲い掛かったこと。あの人は平気だって、嬉しかったって笑ったけど、でも、身体に負担をかけているのは確かだ。あの人が、要が朝弱いのは俺のせいなんじゃねぇかって。遅刻どころか、朝、デスクに座った瞬間からフル稼働で働き出す花織課長。そんな人があんなに朝に弱いのは俺が無理をさせてるからかもって。
でも、やっぱ、会いてぇ。
これがすげぇガキくさい我儘なのはわかってる。疲れてヘトヘトの要は昼近くに起きて、慌てて洗濯物を片付け、食事を済ませ、部屋をざっとだろうと掃除をしているかもしれない。貴重な日曜、あの人は家の仕事に追われてる。
「……」
それなら、買い物とかしてやればいいんじゃねぇ? そしたら、ほら、あの人が買い出しに行く手間が省けるだろ? 時計を見ればちょうど夕方だった。ほら、ちょうどいいだろ。夕飯用の買い物してやろうか? って尋ねたらいいかもしれない。
そんなことを思いついたところで邪魔するように電話が鳴った。
「は?」
見れば実家からだった。イやな予感しかしねぇ。実家が電話してくるのなんて、ほぼ俺にとっては面倒なことばかりだったから。
「……はい、もしもし?」
『もしもし、高雄兄ちゃん?』
「あぁ、そうだけど」
しかも、世界一話が長くて面倒な母親からだとわかると、余計にイヤになってくる。
『あんた、冬月さんって、覚えてる?』
「……は?」
もう、完全に面倒な予感しかしなかった。
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