38 面倒な男

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 俺の地元は田舎だ。狭い田舎じゃ、結婚は早いし、ウソみたいに昔からの考えがまだしっかりと居座っている。共働きのことをよく思っていない人もまだいるほど、昔ながらの考え方をする人がいて、俺にとってはそれも居心地の悪い原因のひとつだった。狭いのは空間だけじゃなく、人の心も同様だ。  だから、俺みたいに結婚する気配もないとすげぇ心配される。 ――高雄、良い人はいないのか? ――結婚しないの? いいわよ、結婚は。  そんなことをあっちこっちで聞かれる頻度は年々上がっていく。それは親類から、友人から、無遠慮に投げ込まれる質問だった。もちろん、親からだって。 ――冬月さん、私が通っている美容院の娘さんなんだけど、高雄のこと! 気になってるみたいなの! ねぇ、すっごい美人よ? どう?  どう、ってなんだよ。今年の正月もあっちこっち、親戚と新年の挨拶をする度に身勝手に誰かと俺をくっつけようとしてたけど、まさか、名指しで同級生をいきなり薦められるとは思ってもいなかった。  どうじゃねぇよ。もういるっつうの、相手ならちゃんと、いる。 ――それでね、今日、そっちに冬月さんが用事があるらしくてね? あんたに届けて欲しかったものを代わりに持って行ってもらったから。あんた、ちゃんと受け取ってよね。  なんだよ、それ。急に何してんだ、マジで。話がそもそも長い母親に適当に相槌を打っていたら、いきなり、そんな縁談めいたことを言われた。冬月、同級生で、当時は地味だったが、今はすげぇ美人になってた。  俺のことが気になっていて、もちろん俺と同じ歳、つまり、あの土地では結婚適齢期は充分すぎている。しかも女だから、嫁の貰い手がなくなるんじゃないかと、冬月の親は焦っていて、俺の親も、いっこうに結婚する気配が全くない俺に少なからず焦っていて。  結果、俺と冬月の頭上で親同士が今のご時世には似つかわしくない計画を立てたらしい。  アホくせぇってスルーできたらいいのに。 ――すみません、冬月です。  彼女側がその計画に乗ってるせいで、スルーするのすら面倒になる。母親との電話を終えた画面には、まるで「ほら、いまだよ」ってどこからか指示でもされているんじゃないかと疑いたくなるほど、絶妙なタイミングで彼女からメッセージが届いていた。
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