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普通、ありえないだろ。
親同士が話して、許婚みたいなことをするなんて、ありえねぇ。
「ごめんなさい」
でも、それがすげぇ田舎だとありえたりするからマジでめんどくせぇ。
「うちの母が……」
駅前に冬月がいた。俺の親が正月に持たせるつもりだったらしい大吟醸のでかい酒瓶を持って、しとやかな美人が立っていた。
「友達のコンサートについて来たの。それで、こっちに出る機会があるって知った庄司君のお母さんが」
彼女が俺に好意を持っているのはわかってた。正月の飲み会の時にはすでにわかっていて、断る意味合いで連絡先は教えなかった。でも、狭苦しい田舎の中じゃ、結婚適齢期なんてクソみたいな風習が普通に残っていて、彼女はその適齢期をとっくにすぎていて、周りがうるさいだろ。男の俺ですらうるさいと感じるんだ。女である彼女にとっては息苦しいほどかもしれない。
「悪いんだけど」
「ずっと、好きでした」
顔を真っ赤にして、少し俯いた表情。俺はこの冬月なら知ってる。
「ずっと……その、えっと……ごめんなさい」
もっとずっと前からわかってた。高校の時、席が隣になった彼女にさりげなく声をかけたんだ。眼鏡取ったら可愛くなるんじゃない? なんて、良いこと言って。本当に呆れるほどガキくさいだろ? 彼女が俺に気があるのはその時からわかってた。わかっていて、そんなことを言って、頬を染める彼女の反応にどこか満足していたのかもしれない。それ以上の感情も気持ちも持ってないくせに。気を持たせるようなことを、ガキの俺はしたんだ。だから、ここに謝りに来た。親がどんなにけしかけようとも無理だからって断るために。
「悪いんだけど」
「……」
すげぇ悲しい顔をさせた。ずっと、きっとそんな顔を俺はさせてたんだ。
「ごめん」
めんどくせぇのは俺だよ。俺自身だ。人を好きになるっていうのがどんなものかもわかってなかったくせに、恋愛ごっこをずっと続けていた俺だ。俺が一番めんどくさい。
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