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そこで、要の手が、俺を止めようと引っ張ってた手がものすごく力を込めた。
「向こうさんがうちの営業課長をご指名なんでしょ? 専属で担当してくれるのなら発注を増やしましょうって、言ってたらしいじゃないですか」
要の手が震えてる。
「うちをホストクラブかなんかと勘違いされてるようだ」
ニヤリといやらしく嫌味をたっぷり込めた笑顔を要に向けて突き刺して、楽しそうに「枕営業ありのホストクラブと」なんて暴言を吐きやがった。俺の怒りすら楽しそうに、元営業課長は意気揚々と足取りも軽く、自分の窓際のデスクへと歩いていく。
「……要」
「……」
「あの人が言ってたのって?」
新規の商社は年明けから取引を始めたばかり。何千万の売り上げが見込めるような大きな取引なら、双方慎重に、失敗のないようゆっくり商談を進めていくはずだ。それなのに、仕事始め早々から信じられないほどの速さで商談がまとまっていく。会社にしてみたら、不備も見当たらなさそうなこの仕事で、大量の発注がかかることに何を渋る必要があるのかってなるだろう。下手に慎重になりすぎて、相手に逃げられたくない。このご時世、仕事の争奪戦は激しさを増すばかり。
「別に、普通の商談だ」
でも、今のあんたは自分の顔、鏡で見たのか?
「悪かった、庄司」
「……何が?」
「その、さっきの彼の言い方、気分悪かっただろう?」
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