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奥歯が痛い。力を込めすぎて、歯が軋む。嫌な感触に全身が、嫌悪から肌が栗立つ。
「あんたは何に謝ってんの?」
「だからっ、あんな、ホスト、とか」
「そこじゃねぇよ!」
廊下だっつってんのに、止まらなかった。
「庄司っ」
声を荒げることをどうにもできなかった。
「わかんねぇ?」
「だから、何をだっ、私は、別に何もやましいことは」
「……そこじゃねぇ」
喉奥が苦くて、辛くて、息を飲み込むのすら辛くなるから吐き出してしまう。
「俺、あんたの、なんなの?」
「……え?」
何一つ聞いてない。なぁ、顧客を垂らし込んだとか思ってねぇよ。あの元課長がほざいたことなんてどうだっていい。俺もほだされた阿呆のひとりだと思いたきゃ思えばいい。負け犬の遠吠えなんて耳にすら入らない。
でも、新規の顧客が要の知り合いなことを俺は知らなかった。あんなふうに陰口を言われるのは初めてじゃないんだろ? あの人と仲が良かったおっさんたちがグルになって、あんなふうに事あるごとにあんたのことを小さな棘で突付いてたんだろ? でも、あんたはそれを俺には愚痴らない。ひとりで抱えてた。
「俺は、要の」
恋人なんじゃねぇの? そう言うのさえ、邪魔された。花織課長に外線が入ってるってアナウンスが邪魔をして、教えようとする。目の前にいる人はお前の上司だぞって、そしてお前はただの平社員だろって、言われた気がした。
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