40 阿呆だ

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「言わずにいたの、ごめん」  要はいつだって真面目だから「申し訳なかった」って謝るかと思った。でも、俺はその距離よりも近いところにいる。だから、そんな硬い侘びの言葉じゃなくて、親しい関係でしか言えないだろう三文字で謝られた。 「ダメだな。俺は……ひとりぼっちが長かったせいか、どうしても」  要の溜め息が甘い甘いコーヒーの中に落っこちていくようだった。猫舌だからまだいっこうにに飲めなくて、両手で持ったまま、じっとその手元を見つめてる。 「新規の商社の社長は俺の同級生なんだ。その、前に話しただろ?」  プールの授業でからかって、水着を奪われ、コンプレックスだった体を覗かれた。トラウマでもある相手が、今回の取引相手だった。
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