41 あんた専用のコーヒー牛乳

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「悩みを誰かに相談するなんてこと、俺の人生で初めてだよ」 「!」 「この身体のことだってそうだが、全部ひとりで悩んでたから。高雄に話すとすごく楽になる。この、ぱいぱんのこともそうだが、全部、ひとりじゃなく高雄に話すだけで本当に気持ちが軽くなるんだ」  この人、丸ごと反則だろ。 「あ、でも、それだとお前は」 「あんたなぁっ!」 「高雄?」  何、きょとん、ってしてんだよ。 「顔、赤いぞ? どうしたんだ?」 「あんたがぱいぱんとか職場でふっつうに言うからだろ」 「! こ、ここ、これはっ!」  俺といて、思わずいつもの背筋に針金通したみたいにいつでもどこでも正しい真っ直ぐさを持つ花織課長でいられなかった? ふわりとしていて、ふにゃふにゃで、まるで膝の上で昼寝をしている猫みたいに柔らかな要に戻ってた?  なんか、もうどうしようもなく可愛くて、抱き締めたくて、でもめんどくせぇ位に猫舌なこの人はまだコーヒーが並々入ったままの缶を手に握ってて、抱き締めて、そのスーツに溢すわけにはいかないから、小さな頭だけを引き寄せて、そのてっぺんの艶々した黒髪にだけ口付ける。  俺の前でだけ甘える愛しい人が少しだけ、その頭をこっちに傾けて、重い溜め息じゃなく、静かにゆっくりと深呼吸をした。 「すごくストレスだ」 「……要?」 「友人と商談をするのはすごく辛い」 「だから、俺が補佐を」 「いや、いい」  腕の中に抱え込んだ小さな頭をわずかに横に振る。 「なんで」 「ひとりで抱え込むとかじゃなく。これは、なんだろう……うーん」 「要?」 「君にたくさんのことを教わったから、それを証明してみせたい」  俺は何もあんたに教えてなんていない。教わったのは俺のほうだろ。 「自分のことが大嫌いだった」 「……」 「毛のことだけじゃなく、もう自分の何もかもが好きじゃなかった。だから人にだって好かれないのは当たり前だと思っていた。でも、高雄が好きになってくれた」  他にも色々教わったんだ。猫舌でも熱くなく食べる方法もそうだし、お酒を飲んでしまったら吐いてしまうのが一番だということも。他にも色々。だから、陰口も、今抱えている仕事が辛くても大丈夫。
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