41 あんた専用のコーヒー牛乳

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「要」 「陰口も気にならない。以前だったらきっとすごく気にしてたと思う」  他人にどう見られるのか、どう思われるのか、それがすごく狭い了見の中で辿り着いた結果が、人嫌いだったのだから。どう思われるのかを気にするのじゃなくて、何も思われないほど、人を自分から遠ざければいいと。 「でも、今は平気だ。高雄がいてくれるから」 「俺は」 「本当にありがとう。大丈夫だ。俺は、まだ、頑張れる」  この商談をしっかりまとめ上げて成立させる。それができたら、きっと本当に今の自分に自信が持てると思う。そう言って、腕の中にあった要の頭が揺れて、黒いけれどどこか透き通っている瞳が真っ直ぐ俺を見た。  いつでも、この人の瞳は俺を真っ直ぐ捕まえる。 「……要」 「すごいな、高雄は」 「は?」 「すごくヘトヘトだったんだ。もう疲れてきつかったんだが、コーヒー牛乳飲むより、高雄にぎゅっとしてもらうほうがよっぽど疲れが吹き飛んだ」  めちゃくちゃ笑いながらそんなことを言うから、もう可愛くて、嬉しくて、思わず吹き出しながら、俺ってあんたのコーヒー牛乳かよって言ったんだ。 「いいよ。あんた専用のコーヒー牛乳な」  そんなわけわかんねぇ子どもみたいなことを言って、ふたりで笑った。  その、翌日、要に深い傷を負わせた、でかい商社の社長をしているっていう同級生が取り巻きみたいな部下を数人連れて、うちの会社にやってきた。監査という名の重箱突付きをするためにやって来た社長が、ニヤリとクソイジワルそうな笑みを浮かべていた。  ものすごく厳しい監査だった。  相手はバカでかい商社で、うちは普通の中小企業。その規模も力も、一目瞭然の差があった。来社の約束の時間よりも早く来るなんて非常識にもほどがある。でも、そのご一行様の背後に何千万の売り上げになるだろう仕事があると思うと誰もが笑顔で出迎えるしかない。  監査は準備期間をほとんど設けていないくせに、かなり厳しいレベルで審査された。そりゃそうだ。大きな取引になるのだから、向こうだってそこは厳しく見るだろ。でも、これだけ事細かに審査するのなら、この数日で、年明け早々のタイミングでなんてありえない。
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