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「こんな見積もり、ダメに決まってるだろ。お前は会社を大赤字にするつもりか? やり直しだ」
どえらいのが来たって皆、顔面蒼白になったんだ。花織課長の前の課長も厳しかったけど、どこかずぼらだったから、隙があるっつうか、はいはい、わかりましたよってバカにしてた。
「なんだ、この納期回答は。これ、ちゃんと工程管理のほうに問い合わせたのか? この工程には、丸二日かかることも知らないのか? 納期回答くらいちゃんとやれ」
でも花織課長は一ミリだって隙がない。それどころか、完璧すぎて、内心だろうがバカにしてやることも、文句を溢すこともできない。
「おい! 山口! 今持って来た見積もり書、もう一回持ってこい!」
「は、はいっ!」
慌てて俺の後輩である山口が駆け寄って、ぴたりと停止した。課長のデスクの前で金縛りにあったみたいに動かない。っていうか、動けない。課長がめちゃくちゃ睨んでいるから。
「今の見積もり、お前、試験成績票の添付手数料抜けてるぞ。それだって人件費、票の紙代、諸々かかってるんだぞ。サービスにするな。ちゃんと利益に繋げろ」
「え、でも」
いや、無料だろ、そこはサービスだろ。添付手数料ったって、材料費込みで何円なものなんだ。それをきっちり取るよりも、そちらさんのご都合もありますよねっつって良心的なところを見せて、好印象にしたほうがいい。そしたら、次の仕事に繋がる。
「そういうところをきっちりしないと、付け込まれて、向こうの都合の良いようにしか仕事がとれなくなる。わかったな」
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