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〝あんたなんて、産まなきゃよかった〟
……それって、親が子に一番言ってはいけない言葉だと思う。
その瞬間、私はどこか他人事のように、心の中でそう反論していた。
そんなありきたりな台詞、現実に言う親などいないと思っていた。こういう言葉を面と向かって言うのも虐待のひとつだろうか。否定し続けられ育った子供は、将来捻くれてしまうのだと何かで読んだ気がする。
でも、何を言われようと気にはしない。
私だって、別に望んであなたの子になったわけじゃない。
もう、会う気も無い。二度と頼ったりなんかしない。
私はこれから、一人で生きていくんだから。
――どこかでずっと、携帯のアラームが鳴っている。
うるさい。耳障りな音だ。誰か止めてよ。
この音を、早く止めて……。
*
「お客様」
そう声を掛けられて、私ははたと目が覚めた。
いつの間にか眠ってしまったらしい。突っ伏していた体を起こすとひどく頭痛がし、どこか寝違えてしまったのか、体がギシギシと軋むような感覚がした。
制服のカフスボタンが顔に当たっていたらしく、頬を触ると僅かに跡が残っている。どれくらいの間こうしていたのだろうか。
見知らぬ街のコンビニの、イートインスペース。
最近のコンビニではよく見かけるようになった。入りやすいファーストフード店への対抗なのか、こんなものができようとは便利な世の中になったものだ。
……特に、何処ぞに泊まる金も無い家出娘にとっては。
「他のお客様のご迷惑となりますので」
まだ寝ぼけ気味の私の横で、店員がご丁寧に説明する。
……他に客なんかいないじゃない。
そう思ったが、黙っていた。昨日までは無かった、『このスペースでは勉強、睡眠など長時間のご利用はお控えください』と書かれたチラシが、これ見よがしに貼られている。
私は席を立った。
出口に向かうと、すれ違いざまに客が一人、店内に入ってきた。天井で、入退店を知らせるリズミカルな電子音が鳴り響く。
……アラームの音だと思ったのは、これか。
もうしばらく学校にも行っていない。夢の中でまでアラームの音を気にするなんて、馬鹿みたいだ。
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