待ち人は夜明けとともに

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   * 「本当に、よかった。もう駄目かと思った」  父親だというその男は、私が落ち着いた後もいつまでも泣き続けていた。  私は、家出をしてすぐに、あの公園のそばの三叉路で事故に遭ったらしい。  真夜中の居眠り運転の車に跳ね飛ばされ、頭を強く打った。何度も生死の境を行き来し、死の淵から戻ってきた今、既に家出をしてから一ヶ月が経とうとしていた。  ICUには多くの患者が眠っており、検査機器の電子音が四方に鳴り響いている。 「……どうしていきなり現れたの?」  私は呼吸器を付けたまま、もごもごと喋った。  父は泣きはらした顔を上げ、小さく語り始める。  父は、私が小さい頃不倫をして離婚したのだと母に聞いていた。  でもそれは母の嘘で、不倫していたのは母の方だったらしい。父は私に会いたがったが、母にずっと拒否され続け十数年が経ってしまった。  それがある日、『再婚するから比奈をお願い』とだけ言われ、連絡が取れなくなったという。 「……お願いされたはいいものの、住所すら教えてもらう前に連絡が途絶えて途方に暮れていたんだ。そんなとき、街中でお前を見つけたんだよ。いや、もう何年も顔を見ていないから分かるはずもなかったんだが、なんとなく、比奈だと思った。追いかけたら坂本さんという方に会って、事情を話すと、とにかくこの病院に来てほしいと」  ……もっちゃん。  私はもっちゃんの顔を思い出す。  今頃何をしているだろう。あの仏頂面を思い出す。 「……ねえ、お父さんってもしかして、霊感ある方?」 「え?」  父は、私の言葉を聞いて固まった後、またさめざめと泣きだした。どうやら私の問いより、『お父さん』という単語の方に反応したらしい。  父はしばらくして泣き止むと、改まってパイプ椅子に座り直した。真剣な表情で、私たちは向き合った。 「今まで、放っておいてしまって申し訳なかった。信じてもらえるか分からないが、俺はずっと比奈と会える日を待ってた。もしお前がよければ、俺と暮らしてほしい」  
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