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私にとってコンビニは、唯一の光だった。
どんな深夜でも、休むことなく煌々と照らす青白い光。誰も彼も拒否せず受け入れてくれる、暖かくて、素っ気なくて、無機質な空間。
と言っても、昨日は拒否されてしまったけれど。この空間が心地よかった。私にはその他人行儀な距離感が丁度よくて、まるで街頭に群がる羽虫のように、真夜中に光を求めてはここに戻ってきてしまう。
……私はいつまで、こんなことをしているのだろう。
現実を見ることは、苦しい。
「……そこにいられても、困るんだけど」
顔を上げると、昨日話しかけられた店員がまた眉根を寄せて立っていた。
私はコンビニの正面、駐車場のパーキングブロックの上に座り、携帯で暇を潰していた。いや、今夜の『カモ』を探していた。
家から持ち出した所持金は、もういくらも無い。寝床を手に入れるにはスポンサーが必要なのだ。
ふと思いついて、店員の方に向き直る。
この男……三十手前くらいだろうか。多くの大人と関わるうちに、年齢を当てるのが得意になってきていた。
寝癖のままなのか髪もボサボサだし、ちっともイケメンではないけれど。一重のその細い目と薄い唇は、嫌いじゃない。
薬指に指輪が無いことを確認し、私はよそ行き用の女子高生スマイルを作る。
「だって、行くところ無いんだもん。お兄さん、今夜泊めてよ。援交失敗続きなの」
「家に帰れよ」
にべも無い態度。……駄目か。
でもこんな対応には慣れてるし、今はどんな内容でも話す相手がいるのは嬉しかった。
「……もっちゃん、この店に最近入った人だよね」
もっちゃん、と呼ばれて、おじさん――もとい、お兄さんは思わず自分の胸の名札を見る。
『坂本』。略してもっちゃんである。
もっちゃんは、ますます困ったように片手を腰に手を当てる。
「……今だけの、助勤だから」
「へえ、そんなのあるんだ。ヘルプの割にバイトに指示出してるけど……上層部の、クレーマー係とかなの?」
もっちゃんは、私の目を見つめた。その瞳に一瞬咎めるような光が見え、怯みそうになる。
「……そう。お前みたいなやつを追っ払うための、な」
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