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――まあ、いいか。
ひとまずは、安定した居住スペースを確保することが重要なのだ。私は不穏な空気にもめげず、黙ってついていった。
そのまま、二十分程歩いただろうか。
近くだから、と言った割に、もっちゃんは足を止める気配が無かった。コンビニを出てから一向に会話も無い。
どことなく不安を感じるとともに、連動したように頭痛が戻ってきた。やがてそれはガンガンと鈍器で殴られるような激しい痛みとなり、歩行すら怪しくなる。
……どこかで、電子音が聞こえる。
おかしい。ここはコンビニじゃないのに。
延々と繰り返される、耳障りな音。速くなったり遅くなったり、その不規則なリズムは妙に不安を煽ってくる。
「……まだなの?」
前を歩くもっちゃんの後ろ姿に、そっと話しかける。しかし彼は黙々と歩くだけでそれに答えない。
私は不意に、足を止めた。
……この道を、知っている。
来たことがある。
この先、商店街があって、大きな公園がある。それを挟むように、また大きな三叉路があって……。
……なんだろう。
これ以上、進みたくない。
足を止めた私を、もっちゃんが振り返った。
険しかった表情は、いつの間にか悲しみを帯びたものになっている。それは、私が初めて見るもっちゃんの表情だった。
「……悪い。もうあまり良くないみたいだから、荒療治なんだけど……」
もっちゃんは私の元まで戻ると、その腕を掴みまた前を歩き始めた。
掴まれている、腕が痛い。私はそれを解こうとして、残された方の手で彼の腕を引っ張る。
「待って、行きたくない……」
しかし拒んでみても、その腕の力は強く、女の私にはとても外せない。
軽く引きずられるような状態で、前に進んでいく。
既に夜深く、両脇にはシャッターの閉められた商店街が見えてくる。その先には公園だ。
……駄目だ、ここに行っちゃいけない。
どうしよう。どうしよう。
声を上げようか。でも……。
その時、もっちゃんが唐突に、話し出した。
「お前の母さん、家を出ていくらしい」
「……え?」
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