待ち人は夜明けとともに

7/11
前へ
/11ページ
次へ
   ――まあ、いいか。  ひとまずは、安定した居住スペースを確保することが重要なのだ。私は不穏な空気にもめげず、黙ってついていった。  そのまま、二十分程歩いただろうか。  近くだから、と言った割に、もっちゃんは足を止める気配が無かった。コンビニを出てから一向に会話も無い。  どことなく不安を感じるとともに、連動したように頭痛が戻ってきた。やがてそれはガンガンと鈍器で殴られるような激しい痛みとなり、歩行すら怪しくなる。  ……どこかで、電子音が聞こえる。  おかしい。ここはコンビニじゃないのに。  延々と繰り返される、耳障りな音。速くなったり遅くなったり、その不規則なリズムは妙に不安を煽ってくる。 「……まだなの?」  前を歩くもっちゃんの後ろ姿に、そっと話しかける。しかし彼は黙々と歩くだけでそれに答えない。  私は不意に、足を止めた。  ……この道を、知っている。  来たことがある。  この先、商店街があって、大きな公園がある。それを挟むように、また大きな三叉路があって……。  ……なんだろう。  これ以上、進みたくない。  足を止めた私を、もっちゃんが振り返った。  険しかった表情は、いつの間にか悲しみを帯びたものになっている。それは、私が初めて見るもっちゃんの表情だった。 「……悪い。もうあまり良くないみたいだから、荒療治なんだけど……」  もっちゃんは私の元まで戻ると、その腕を掴みまた前を歩き始めた。  掴まれている、腕が痛い。私はそれを解こうとして、残された方の手で彼の腕を引っ張る。 「待って、行きたくない……」  しかし拒んでみても、その腕の力は強く、女の私にはとても外せない。  軽く引きずられるような状態で、前に進んでいく。  既に夜深く、両脇にはシャッターの閉められた商店街が見えてくる。その先には公園だ。  ……駄目だ、ここに行っちゃいけない。  どうしよう。どうしよう。  声を上げようか。でも……。  その時、もっちゃんが唐突に、話し出した。 「お前の母さん、家を出ていくらしい」 「……え?」  
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加