待ち人は夜明けとともに

9/11
前へ
/11ページ
次へ
   * 「……比奈!」  その声に目が醒めると、視界にうっすらと白い天井が広がっているのが見えた。  ……明るい。左手には薄手のカーテンが掛けられた窓があり、その隙間から、眩しすぎる夏の光が差し込んでいる。  久々に、太陽の光を見た気がする。  そうだ、私は、ずっと夜の街を歩いていた……。 「よかった……。本当に、よかった」  その声に振り向くと、ざわざわと慌ただしく人が行き来する中、真横に一人、涙を流している男がいた。  歳は……おそらく、四十三、というところだ。その髭面の顔に、見覚えがある。 「……ストーカー」  思わず呟く。  男が、え? というと同時に、私は口元に覆い被さっていた呼吸器を外し、騒ぎ立てた。 「助けて、誰か! 変質者なの、この人!」  すると、女性の看護師が数人私を取り囲んだ。興奮する私の体を押さえ、再度呼吸器を取り付けられる。  なんで私の方が押さえ込まれるんだ。逆だ――そう反論しようとして、一人の看護師が私の顔を覗き込んだ。 「市村さん、よかった。ここは病院よ。名前は言える? 落ち着いて、この方はあなたのお父さんよ」 「……え?」  私は素っ頓狂な声を出した。  
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加