18人が本棚に入れています
本棚に追加
*
「……比奈!」
その声に目が醒めると、視界にうっすらと白い天井が広がっているのが見えた。
……明るい。左手には薄手のカーテンが掛けられた窓があり、その隙間から、眩しすぎる夏の光が差し込んでいる。
久々に、太陽の光を見た気がする。
そうだ、私は、ずっと夜の街を歩いていた……。
「よかった……。本当に、よかった」
その声に振り向くと、ざわざわと慌ただしく人が行き来する中、真横に一人、涙を流している男がいた。
歳は……おそらく、四十三、というところだ。その髭面の顔に、見覚えがある。
「……ストーカー」
思わず呟く。
男が、え? というと同時に、私は口元に覆い被さっていた呼吸器を外し、騒ぎ立てた。
「助けて、誰か! 変質者なの、この人!」
すると、女性の看護師が数人私を取り囲んだ。興奮する私の体を押さえ、再度呼吸器を取り付けられる。
なんで私の方が押さえ込まれるんだ。逆だ――そう反論しようとして、一人の看護師が私の顔を覗き込んだ。
「市村さん、よかった。ここは病院よ。名前は言える? 落ち着いて、この方はあなたのお父さんよ」
「……え?」
私は素っ頓狂な声を出した。
最初のコメントを投稿しよう!