危険な遊び

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危険な遊び

わたしが子どものころ、近所に、とても変わった子がいました。家庭が複雑だったのかもしれません。 なにしろ、自分の母親をババアと呼ぶような女の子だったので。 これが高校生くらいなら、まあ、さほど不自然じゃありません。でも、それは、その子が小学に入学する前の話です。 そういう子だから、近所の評判は、よくありませんでした。 自分より小さい子をつきとばしたとか、大人に向かって「殺すぞ」と啖呵を切ったとか。 たとえば、こんな逸話があります。 わたしの実家は海辺に近いのですが、縄とびのさきに、つかまえた子猫を結びつけ、海にむかって投げ入れる。 そして、ズルズルと縄とびをひきよせ、また投げ入れる……。 それをずっと、くりかえして遊んでいたそうです。 その子が幼稚園ごろの話だと思います。 ふつうの子どもがしないようなことを、平気でする子どもでした。 わたしが小学二年生のときのことです。 たまたま、学校帰りに、その子を見かけました。 墓場です。 霊園のような、きれいな墓場じゃありません。 海風の運んでくる砂地の古い墓場。 その子は墓を倒して遊んでいました。 わたしが見ている前だけでも、四つ五つは倒しました。 倒れた墓石に砂をかけて、けりとばして笑っています。 わたしは怖かったので、見ないふりして通りすぎました。 遠くなってから、ちらりと、ふりかえってみました。 その子は首塚のよこに置かれた地蔵に手をかけていました。地蔵が倒され、首の折れるのが見えました。 その子が、わたしのほうを見たので、急いで逃げ帰りました。 数ヶ月たち、わたしは墓場で見たことを、すっかり忘れていました。 その子のウワサは、あいかわらずでした。 近ごろでは、変なことを口走って、ますます奇矯な行動が目立つようです。 「来るな! あっち行け!」とか、「誰か、助けてェッ!」と叫び声をあげることもあるようです。 学校にも来なくなりました。 でも、もともと、暴力的で嫌われていたので、誰も気にしません。 その子は、まもなく、踏み切り事故で死にました。 首が、きれいに切り落とされていたそうです。
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