はじまりは彼女の。

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「お待たせしました~」 軽やかな声が真近で聞こえて振り返ると、先ほどの彼女がカレーセットを持ってきてくれていた。 「あぁ、いいですよ。自分で運びますから」 「いえ、わたしが運びますよ。今あんまりお客さんいないですから」 額からこめかみに伝う汗が幾筋も見える。 こんなに暑いところで怠けもせず、働き者だなぁ、と感心している間に 彼女は近くのテーブルにトレーを置いてくれた。 「ありがとうございます」 そうお礼を述べると、彼女は人懐こい微笑みを見せて 「ごゆっくりどうぞ」 と言いながら持ち場に戻って行った。 ごゆっくり……したいな、確かに。 毎日毎日多忙すぎて、この頃はたまの休日も寝てばかりいる。 海をこうして眺めるだけでも何となくストレス解消になりそうだな、と自然の偉大さに頬を緩めながら 出されたカレーをひと匙、口に運んだ。
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