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「お前……その服」
「あ、驚いた?」
その少年は、身につけているもの全てが真っ白だった。
白いセーター、白いハーフパンツ、白い靴下、白いショルダーバッグ、そして、シミ一つ無い白い靴。
まるで、そこだけ世界から浮いているようだった。
「僕はね、真っ白。お兄さんと反対だね」
服だけじゃない。体中の肌まで、全てが雪のように白い。その中で唯一白ではない髪と目でさえ、薄い茶色だった。
「お兄さんは、どうして真っ黒なの?」
「別に…楽な色だし」
「楽? 黒って、楽になれる色なの?」
呆然としたまま答えると、その少年は、見る者さえ真摯にさせる程必死な顔をして、俺の服を掴んだ。
「いや、ただ合わせやすいってだけで…楽になれるわけじゃないけど」
そう答えると、少年は少しの間黙った後、「そ…っか」と言って力無く手を離した。
「おい…?」
癖でつい、女に対するように声をかける。
「分かった…」
少年は顔を上げて、沈んだ声で呟いた。
「え?」
「分かった。ありがとう、お兄さん。呼び止めてごめんなさい」
灰色の空の下。走っていく白い少年の姿はまるで違う世界のものみたいだった。
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