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今のは俺の言葉だよな? 当たり前だ。目の前の華奢な体から、こんな声が出るわけがない。
昨日の俺はあんなに苛ついていたのに、どうして今日、こんなガキに自己紹介なんてしてるんだ?
「僕はね、ヒカル。『光り』って書いてヒカルだよ」
「…俺は、『光りの希望』で、光希だ」
いつもの冷めた目はどこへ行ったのか。今の俺は、ただ嬉しそうに、その少年の顔を見つめている。
「ほんとっ? おそろいだね、僕たち」
「そうだな」
朗らかに、頷いている。
――――この俺は何だ? 妙に素直で、笑い方までいつもと違うような気がする。
それは……コイツに、会ったからなのか?
「じゃぁ、あの、光希…さん?」
「光希でいい」
「あ、うん! じゃぁ、僕のことはヒカルって呼んでね!」
そう言うと、ヒカルは嬉しそうに白いカサをクルクル回しながら、その場で二回スキップをした。高揚を体の内に留めておけない幼さに、胸があたたくなる。
どうしてだろう。「幼さ」なんてものは、俺が最も嫌いなものの一つなのに。
でも、そんなヒカルの様子を見ながら、「どうやら俺は、こいつに会いたかったらしい」、ということに気づいた。雨の日特有の体のダルさも、不快感も、いつの間にか忘れていたからだ。
その後、俺達は別れた。
話したのはほんの数分。
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