【1】 黒と白

1/4
前へ
/65ページ
次へ

【1】 黒と白

ザァァァァ… ザァァァァ… 「せっかくの日曜なのに雨なんて最悪~。ねぇ光希(こうき)、今日どうすんの? 映画でも行く?」 「あっ私、ちょうど見たいのあったんだー」  ……雨。 「今日はパス」  硝子のカケラみたいな水の粒。小さく震え、降りかかり、俺の生気を刻んでいく。 「えぇー。今日は付き合ってくれるって言ったじゃなーい」  ――――ウルセェ。 「ちょっと、光希が雨の日苦手ってこと知ってるでしょ!  光希、空いてる日にはメールしてね。ちゃんと今日の埋め合わせはしてよ?」 「…ああ」  適当に相づちを打つと、他の奴らもそれで納得したらしく、手を振ってポツリポツリ離れていった。 「ライン、待ってるから……」  最後のグループが去っていく時、一つの囁き声が、耳に届いた。  その声の主を確かめようとしたが、どうにも体がうまく動かず、すぐに諦めて歩き出す。 「あー…誰だったかな」  痛む額を押さえながら考える。  囁きと共に頬に触れた長い髪が頭に浮かび、やっとその女を思い出した。 「ああ。前に泊めてもらった女か」  長い髪。ヤってる時にやたら邪魔だったもんだから、結構印象に残ってる。  それでも、あの髪さえ無ければ思い出すこともなかっただろうな、なんてことをぼんやりと考える。 (終電逃した時たまたま近くにあったのが、あいつのマンションだっただけのことなんだけどな…)  女は、突然訪れてきた俺に驚きはしたものの、嫌がりはしないで、笑みさえ浮かべながら俺を家に上げた。  ああいうことになったのは、寝床とメシの礼と、俺の気まぐれが全ての理由だったのに。 『ライン、待ってるから……』  時々、こういう勘違いをする奴が居て困る。  寝床をどうもアリガトウ。おいしい夜食をアリガトウ。いい暇つぶしになってくれてアリガトウ。  ただ、それだけだ。
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加