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【1】 黒と白
ザァァァァ… ザァァァァ…
「せっかくの日曜なのに雨なんて最悪~。ねぇ光希、今日どうすんの? 映画でも行く?」
「あっ私、ちょうど見たいのあったんだー」
……雨。
「今日はパス」
硝子のカケラみたいな水の粒。小さく震え、降りかかり、俺の生気を刻んでいく。
「えぇー。今日は付き合ってくれるって言ったじゃなーい」
――――ウルセェ。
「ちょっと、光希が雨の日苦手ってこと知ってるでしょ!
光希、空いてる日にはメールしてね。ちゃんと今日の埋め合わせはしてよ?」
「…ああ」
適当に相づちを打つと、他の奴らもそれで納得したらしく、手を振ってポツリポツリ離れていった。
「ライン、待ってるから……」
最後のグループが去っていく時、一つの囁き声が、耳に届いた。
その声の主を確かめようとしたが、どうにも体がうまく動かず、すぐに諦めて歩き出す。
「あー…誰だったかな」
痛む額を押さえながら考える。
囁きと共に頬に触れた長い髪が頭に浮かび、やっとその女を思い出した。
「ああ。前に泊めてもらった女か」
長い髪。ヤってる時にやたら邪魔だったもんだから、結構印象に残ってる。
それでも、あの髪さえ無ければ思い出すこともなかっただろうな、なんてことをぼんやりと考える。
(終電逃した時たまたま近くにあったのが、あいつのマンションだっただけのことなんだけどな…)
女は、突然訪れてきた俺に驚きはしたものの、嫌がりはしないで、笑みさえ浮かべながら俺を家に上げた。
ああいうことになったのは、寝床とメシの礼と、俺の気まぐれが全ての理由だったのに。
『ライン、待ってるから……』
時々、こういう勘違いをする奴が居て困る。
寝床をどうもアリガトウ。おいしい夜食をアリガトウ。いい暇つぶしになってくれてアリガトウ。
ただ、それだけだ。
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