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そもそも好きかどうかもわからないのに。
風香と付き合う俺。
あの人と付き合う俺。
言葉にしてみても、後者のほうが魅力的に思えた。
俺は、男が好きなのだろうか。今までにそんな経験はない。
じゃあこの感情は、なんだろう。
わからない。
とにかく今俺は、早く彼に電話をかけたくてうずうずしていた。
部活が終わったのは、六時半を過ぎた頃。学校を出て、近くの公園に向かった。日が落ちてすでに暗かったが、街灯に照らされた公園内はほんのり明るかった。ベンチに座りスマホを取り出す。
きっと今なら迷惑はかからない。いや、残業をしていたら邪魔かもしれない。
何時ならいいのか、わからない。
電話しろよ。
彼の声が蘇る。もう一度、聴きたいと思った。
スマホの画面に、携帯の番号を呼び出した。そして、発信ボタンを押す。
呼び出し音が鳴った。三回目で、相手が出た。
『はい、加賀です』
電話が言った。加賀、というのが彼の名字らしい。俺も名乗ったほうがいいいのだろうか。
「倉知です」
『倉知さん? ええと、どちらの倉知さん?』
「あの、電車の」
少し間を置いて、『ああー、はいはい』と明るい声で言った。
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