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俺と風香は付き合っていない。周囲には付き合っていると思われているが、違う。どちらかが告白し、付き合おうとなったわけでもないし、手を握るとか、具体的な接触があったわけでもない。
でも丸井は、ことあるごとに風香を彼女扱いする。丸井だけじゃない。周囲の人々によって、俺たちは彼氏彼女に仕立て上げられている。
風香は女子バスケ部で、男子バスケ部の俺とは何かと共通点がある。お互いに嫌いではないし、仲がいいが、恋愛感情とは違う。
恋愛感情。
俺があの人に対して抱いている気持ちは、それなのだろうか。
綺麗だと思うし、ずっと見ていたい。今日のあの出来事を、忘れたくない。初めて声を聴いた。声まで綺麗だった。優しい声色を思い出すと胸が苦しくなった。
そうか。もしかしてこれは。
「恋かな」
声に出ていた。丸井が素早く反応する。
「は? 恋?」
「いや、この卵焼き、味が濃いかなーって」
弁当の卵焼きを箸でつまみ、口に入れる。丸井が「なんだ」とつまらなそうにパンをかじる。
「風香ちゃん、可愛いよな。正直羨ましい」
俺の背後を見やって、丸井が言った。丸井もバスケ部で、風香とはよく話している。
「でもお前らお似合いだしな」
にやりと笑う。
「付き合ってないって」
「だからなんで否定するんだよ。堂々としてりゃいいのに」
付き合っていないと説明しても、毎回こうなる。なぜだろう。俺は首をかしげた。
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