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『かけてくんの遅かったな。携帯持ってないのかと思った』
「いえ、仕事中に迷惑かと思って。今、お電話大丈夫ですか?」
電話口で、加賀さんがぶはっと吹いた。
『お前、思った通りの真面目君なんだな。本当に高校生?』
「高校生です」
真剣な声が出た。加賀さんがケタケタと笑った。何がそんなに面白いのだろう。
『倉知君、今どこ? 家?』
「外です。学校の近くの公園からかけてます」
『お礼したいし、晩ご飯、一緒にどう?』
信じられない。慌てて「はい」と答えた。
『ああでも、おうちの人が作ってくれてるよな』
言葉に詰まった。そうだった。母が温かい夕食を用意して待っている。いらないなんて、今さら言えない。
でも、せっかく誘ってくれたのにこれを逃すのは惜しい。
迷っていると、加賀さんが「わかった」と言った。
『明日、時間ある?』
明日は土曜で学校が休みだが、午前中は部活だ。
「午後からなら空いてます」
『よし、じゃあ明日な』
目眩がしそうだ。胸がいっぱいで、何も言えない。
電話の向こうで「主任、外線一番です」と男の声が聞こえた。加賀さんが「あいよー」と答える。やはり、まだ仕事中らしい。
『あとでまた連絡するわ』
「あ、あの、お忙しいときにすみませんでした」
『おう、じゃあな』
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