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倉知編 「告白」
次の日の部活は、まったく身が入らなかった。ミスを連発し、コーチに何度も怒鳴られた。部員たちも、俺の様子に呆れ顔だ。
俺のせいかはわからないが、いつもより早めに練習が終わり、部員は陰でこっそり喜んでいた。
「どったのお前」
部室で着替えていると、丸井が後ろ頭をどついてきた。
「昨日から変だぞ。なんかあった?」
「何も。何もない、大丈夫」
「じゃなさそうだから訊いてんだよ。俺にも言えないのか?」
毎朝見ていた男のことが頭から離れない。好きかもしれない。多分、好きだと思う。
言えるわけがない。下手をしたら友人を辞められる。
「ちょっと整理したい」
「そうか」
丸井はそれ以上追求しなかった。俺の背中を力任せに叩く。試合前の気合い入れによくやられるのだが、今は痛いだけだ。
「これからカラオケ行くけどお前らも行く?」
部員の誘いに、丸井は「行く」と答えたが、俺は用事があると断った。丸井が心配そうに俺を見ている。
大丈夫。今日ですべて終わらせる。来週から俺は、あの電車には乗らない。もうあの人には会わない。
きっと嫌われるから。
嫌われる。
はあ、とため息が出た。
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