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ショルダーバッグを膝に載せ、それを枕代わりにして突っ伏した。二時間寝て待つ作戦だ。こんなにモヤモヤしていて眠れるだろうかと思ったが、昨日あまり寝ていないせいで、爆睡した。
頭を軽く叩かれて、目が覚めた。顔を上げると加賀さんが立っていた。
「おはよう。いつから寝てんの?」
人なつっこい笑みを浮かべる加賀さんは、一瞬誰だかわからなかった。なぜなら私服だったからだ。パーカーにジーンズという砕けた格好。スーツ姿とのギャップもあるが、妙にドキッとした。
可愛い。
口元を手で覆い、にやけそうになるのをこらえた。
「……おはようございます。もう一時ですか?」
「お前まさか早めに着いて寝てたんじゃねえだろな」
「二時間寝ました」
「うおい! 連絡寄越せよ、馬鹿」
「加賀さん」
口から手を離し、膝にのせたバッグを両手で握りしめた。
「言わなきゃいけないことがあるんです」
「なんだよ」
何から言おう。どう言おう。もうちょっとシミュレーションしておけばよかった。まとまらない。寝起きだし、何も考えられない。頭の中がぐるぐるのまま、口を開く。
「俺があなたの降りる駅を知ってるの、どう思いましたか?」
顔を上げられない。うつむいたまま、加賀さんの足を見て言った。
「どうって。他人の降りる駅わかってる奴いるんだなって」
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