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うつむいて歯を食いしばっていると、加賀さんが目の前で屈み、俺の顔を覗き込んできた。すごく優しい目で、綺麗に笑っている。
「付き合うか」
加賀さんが言った。どういう意味かわからない。黙っていると、「おい、まさかのごめんなさいか?」と眉を下げて笑った。
「気持ち、悪くないんですか?」
やっと声が出た。
「何が?」
「男に惚れられて、気持ち悪くは」
「ないよ。お前、めっちゃネガティブだよな」
何も言い返せない。自覚はある。俺は根暗で後ろ向きだ。
「俺はな、めっちゃポジティブなのよ。バランスいいと思わない?」
ヤンキー座りで俺を見上げ、破顔する。
両手で顔を覆い、息を吐いてから、言った。
「加賀さん」
「うん」
「好きです」
はは、と笑う声。いつの間にこんなにも、好きになったのだろう。綺麗だと思って、毎朝見るのが楽しみで、好きだとかはよくわからなかった。
外見だけじゃない。この人の中身が、好きになったのだ。
多分これからもっと好きになる。
俺はそれが楽しみだった。
〈加賀編につづく〉
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