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最初は知り合いかと思ったが、どうやらまったくの他人だとわかると素直に感動した。特に意味のない早朝会議だが、欠席すると面倒なことになっていた。
助かった、ありがたいとは思ったが、倉知が危惧していたような、ストーカーだとか気持ち悪いだとかいう発想はなかった。見るからに真面目そうな容姿のせいかもしれない。
それにしても。
「倉知くーん、歩くの速い」
倉知が立ち止まり、振り返って「すいません」と謝った。目は俺を見ていない。
「おい」
倉知の顔を両手で捕獲すると、思いっきり目を見つめた。
「は、はい」
頬が紅潮していくのを見て、離してやった。
「避けられると寂しいんだけど」
「ち、違うんです! ……あの、すごい、なんか、嬉しくて、恥ずかしくて、いろいろこんがらがってて」
「ほう」
目を細めて倉知を見る。小銭を落とした人みたいに、視線は地面をうろうろしている。
ここまで惚れられると悪い気はしない。
相手は高校生で、自分より背の高い、体育会系の男。俺はノーマルだし、そういう趣味はなかったが、どうしても倉知を嫌いになれそうにない。
というか、可愛いと思う。こいつを「可愛い」と思うのは、きっと親だけだろうなあとぼんやり考えていると、倉知がおずおずと俺を見てきた。
「あの、加賀さん」
「うん」
「ここです、店」
倉知が指差すほうに、「お好み焼き・まる」と書いたのれんがあった。
とりあえず、食おう。
そういうことになった。
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