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のれんをくぐり、店に入ると忙しそうに動き回っている中年の女が「いらっしゃい」と声を張り上げた。
「あら、ななちゃん」
倉知を見てそう言った。どうやら知り合いのようだ。
「部活終わったの? あの子は一緒じゃないの?」
「カラオケ行きました」
「まったく、遊んでばっかりなんだから。あら、お友達?」
倉知の後ろに俺がいることに気づくと、声のトーンが変化した。
「どうぞ、ここに座って。お友達、イケメンねえ。今時の高校生は大人っぽいのねえ」
俺たちを席に案内すると、テーブルにコップを置いて、しみじみと言った。吹きそうになりながら弁解する。
「いやいやすいません、社会人です」
「えっ、そうなの、そうよねえ、イケメンすぎると思ったわ」
イケメンと年齢は無関係だし、そもそも俺はイケメンではない。と思ったが笑って調子を合わせた。
注文が決まったら呼んでね、と女性が去ると倉知が謝った。
「ここ、同級生の店なんです」
「そうか、で、ななちゃんってのはどういうことだね」
倉知はコップの水を一口飲むと、一度咳払いをして、俺の顔を正面から見据えた。
「俺の名前、漢数字の七に、世界の世でななせっていうんです」
「へえ、変わってんな」
「女みたいで嫌いです」
「お前に合うよ。なんか可愛いし」
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