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加賀編 「うちくる?」
「いつまで凹んでんの?」
皿がからになってもまだ、倉知は凹みから出てこない。ずっと悲しそうな顔をしている。クソ真面目な奴だから、キスしてもらえないことより、クイズを間違えたことにがっかりしているのかもしれない。
「もう出るか」
倉知が顔を上げる。捨てられた子犬みたいだ、と思った。
「加賀さん」
「うん」
「あの……、もう少し」
そこまで言って口ごもり、「やっぱりいいです」と続けた。これはあれか、もう少し一緒にいたい、と言おうとしたけど、気を遣ってやめた。という感じか。
「お前んち、近いの?」
「え、はい。すぐそこです」
「その重そうなバッグ、なんとかしろよ」
「別に重くないです。部活の着替えしか入ってないし」
俺のいわんとすることがわからないらしい。直球で返してくる。さすが馬鹿真面目。頭を掻いた。わかりやすく言い直してやろう。
「お前んち行っていい?」
驚いた顔で一瞬硬直する。それから二回、首を縦に振った。
「なんか用事ある?」
「ない、ないです」
どんよりと曇っていた空が、晴れた。倉知の顔が輝いていく。俺は笑いを噛み殺し、伝票を持って立ち上がる。
「ななちゃん、また来てね」
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