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支払いを済ませると、店の女性が俺の手を包み込むようにして釣りとレシートを渡した。
「イケメンのお兄さんも、また来てね」
「ごちそうさまでした。また来ます」
営業スマイルで答えると、嬉しそうに外まで見送りに出た。いつまでも手を振っている。俺は二回振り向いてそのたびに頭を下げた。
「すいません、あと、ごちそうさまでした。ありがとうございます」
「どういたしまして。なあ俺ってイケメンか?」
そういう表現をする人間が周りにいないせいか、正直薄ら寒くなる。倉知は真顔で「イケメンですよ」と答えた。
「でも加賀さんは中身のほうがイケメンです」
「はあ、どうもありがとう」
一般的に誉め言葉だろうから、素直に礼を言った。
「あ」
「ん?」
倉知が突然足を止める。
「いえ、あの、荷物置いたらすぐ来るんで、ここで待ってて貰っていいですか? どこか、別のとこ行きましょう」
「なんだよ、家どれ?」
「そこの、二軒先の……」
倉知が言い淀む。別に普通の民家だ。
「エロ本出しっぱなしとか?」
「そんなもの持ってないです」
キリッとした表情で断言する。この場合男らしいのかよくわからない。
「三十秒で戻るんで、待っててください」
「怪しいな。なんで急に嫌がってんだよ。理由を言え、理由を」
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