加賀編 「うちくる?」

2/4
前へ
/341ページ
次へ
 支払いを済ませると、店の女性が俺の手を包み込むようにして釣りとレシートを渡した。 「イケメンのお兄さんも、また来てね」 「ごちそうさまでした。また来ます」  営業スマイルで答えると、嬉しそうに外まで見送りに出た。いつまでも手を振っている。俺は二回振り向いてそのたびに頭を下げた。 「すいません、あと、ごちそうさまでした。ありがとうございます」 「どういたしまして。なあ俺ってイケメンか?」  そういう表現をする人間が周りにいないせいか、正直薄ら寒くなる。倉知は真顔で「イケメンですよ」と答えた。 「でも加賀さんは中身のほうがイケメンです」 「はあ、どうもありがとう」  一般的に誉め言葉だろうから、素直に礼を言った。 「あ」 「ん?」  倉知が突然足を止める。 「いえ、あの、荷物置いたらすぐ来るんで、ここで待ってて貰っていいですか? どこか、別のとこ行きましょう」 「なんだよ、家どれ?」 「そこの、二軒先の……」  倉知が言い淀む。別に普通の民家だ。 「エロ本出しっぱなしとか?」 「そんなもの持ってないです」  キリッとした表情で断言する。この場合男らしいのかよくわからない。 「三十秒で戻るんで、待っててください」 「怪しいな。なんで急に嫌がってんだよ。理由を言え、理由を」
/341ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8068人が本棚に入れています
本棚に追加