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倉知は困った顔でうつむいた。腕を組んで、無言で待つ。らちが明かないと思ったのか、倉知が渋々口を開く。
「今日姉が、休みだから家にいるんです」
「お姉さん? じゃあ挨拶を」
「駄目です!」
悲鳴のような叫びで拒絶された。
「あのな、何も弟さんと付き合うことになりましたって挨拶するわけじゃないぞ」
「それはわかってます。そうじゃなくて、姉は二人いるんです」
「はあ」
二人いるから俺に会わせたくない。よくわからない。倉知が俺の顔を見てハッとした。
「すいません、わけわからないですよね」
「うん。わけわからん」
「あんまり言いたくないんですけど、姉は、その、休みの日はいつも下着姿でうろついてて」
倉知の申し訳なさそうな顔が面白くて、吹き出してしまった。
「そんな理由?」
「見苦しいものを見せるわけにはいかないです」
「俺は別に大歓迎だけど」
がし、と両肩をつかまれた。倉知の怒った顔が間近にある。
「ここで待っててください」
「はい」
大人しく待つことにした。身を翻して走っていく大きな背中。部活で疲れているだろうに、すごい速さだ。
そういえば、あいつが俺に触れたのは、今のが初めてだ。つかまれた肩に余韻がある。不思議な感じだ。肩を撫でさすっていると、倉知が飛ぶように帰ってきた。
「早いな」
「玄関に放り込んできたんで」
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