倉知編 「奇跡」

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倉知編 「奇跡」

 学校に着くと、自分の席に座り、頭を抱えて悶々としていた。  奪った本の中身を見てみたくなったのだ。文庫本には紙のカバーがかかっていて、タイトルがわからない。  あの人はいつもどんな本を読んでいるのだろうか。  ミステリー小説? 恋愛小説? ファンタジーとか。まさか官能小説だったりして。  妄想がふくれあがる。彼のことを何か一つでも知れるチャンスだ。鞄の中に手を入れて、文庫本に触れた。 「おはよう、倉知(くらち)君」  名前を呼ばれて体が小さく跳ねた。 「お、はよう」 「何? そんなびっくりした顔しちゃって」  俺の机に両手をついて、風香(ふうか)が言った。 「鞄に何か入ってるの?」  風香が中を覗き込もうとする。さり気なく閉じて、机の横にぶら下げた。 「いや、何も」 「怪しいなー、エッチな本とかじゃない?」 「まさか」  狼狽する俺をじっと見て、風香がにやりと笑った。 「あっ、カラス!」  急に大声を出して窓の外を指差した。見ると、確かにカラスが飛んでいた。別に珍しくもなんともない。 「カラスがどうしたって……」
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